家族信託には税制上メリットがあるのか

実家で一人暮らしをする母(75歳)を施設に入所させたい息子(50歳)がいるケースを考えてみます。母は亡くなった父から実家を相続し、実家は母名義になっています。施設の入居には多額の資金が必要なので、入所後に空き家になる実家は売却し、売却資金を入居費に充てたいと息子は考えています。

【Aプラン】母が実家を息子に生前贈与する場合

・息子には不動産取得税や移転登記に伴う登録免許税がかかります。「相続時精算課税制度」を使えば、贈与時の贈与税負担は回避され、相続税の計算に回すことが出来ます。

・贈与後に息子が実家売却を行えば、譲渡所得が発生し、所得税が課されます。この場合、息子は実家の居住者ではないため、「居住用財産の3,000万円の特別控除」の所得税の恩恵は受けません。

・相続発生時には実家は相続財産ではないため、相続税の特例である「小規模宅地等の課税価格の計算の特例」(330㎡以下の特定居住用宅地等は評価額が80%減となる)の恩恵は受けません。

【Bプラン】母が認知症を発症し、法定後見人が付いた場合

・法定後見人は被後見人(母)の財産を減少させるリスクがある不動産の売却を、通常は認めないと考えられます。(家庭裁判所の許可が必要だが、認められない可能性が高い。)

・そうすると、母の施設入居費は当面息子が立替えざるを得ず、母の死亡後に実家を相続してから売却するまで息子の負担が継続します。

【Cプラン】母から息子への家族信託を利用する場合

・家族信託の場合、財産の管理処分権限を息子が持つとして、形式的に所有者欄に息子の名前が記載されますが、「信託目録」(実家の処分を息子に委託する旨)も登記されます。

・その際、登記に伴う登録免許税はかかりますが、息子は実家を預かっているだけの扱いとなり、不動産取得税や譲渡所得は発生しません。

・「居住用財産の3,000万円の特別控除」の所得税の恩恵や、相続税の特例である「小規模宅地等の課税価格の計算の特例」(330㎡以下の特定居住用宅地等は評価額が80%減となる)の恩恵を受けられます。

・家族信託契約には遺言としての機能があるため、相続の際、遺言や遺産分割協議は不要。ただし息子以外に相続人がいる場合は、息子1人が実家を相続することにより遺留分を侵害していないか、侵害する場合は現金や代替の財産を考慮する必要はあります。

以上から、「家族信託には税金上のメリットはあるのか?」の問いに対する答えは、「家族信託そのものに税制上の特例等のメリットはなく、通常の税金の扱いと変わらない」ということになります。言い換えれば、家族信託は、既存の特例等の仕組みを最大限使える選択肢と成り得るということです。