民法915条には、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」と規定されています。このことから、田舎の家や山林などを相続したくない場合、相続放棄をして、責任から逃れたいと考える方もいらっしゃるかも知れません。相続放棄したら、こうした「負動産」の管理から免れるのでしょうか。
民法940条改正前(2023年3月まで)
2023年3月までは、相続放棄しても不動産等の管理義務が残ってしまうケースがありました。改正前の民法940条では、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」とされていました。このため、相続人が1人で後順位の相続人がいない場合や、複数の相続人が全員相続放棄した場合には、その相続人が相続放棄しても遺産を管理しなければなりません。これまでは、複数の相続人がいても、全員が相続放棄したら最後に放棄した相続人は遺産を管理しなければなりませんでした。相続人が放棄し、放棄後に管理を終了してしまうと、他の相続人や相続債権者に迷惑をかけることになります。放棄によって新たに相続人になった次順位者が、相続財産の管理を始められるまで、放棄者に管理継続義務を課していました。
民法940条改正前(2023年4月以降)
2023年4月から施行された改正民法940条では、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」とされたため、「現に占有している」実態がなかった相続人に、管理責任が移ることはなくなりました。
実例としては、母親の元夫(息子にとっては実の父だが、どこに住んでいるのかもわからない)が亡くなった場合、息子は相続放棄をすれば、被相続人の住居を「現に占有」していない(どこに住んでいるのかすら知らない)ので、管理責任から免れることになります。このように、940条改正後は、管理責任に関しては軽減されたと言えます。
相続放棄が家庭裁判所に受理されれば責任から免れるのか
相続放棄は、相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所に申立てることになりますが、家庭裁判所が受理すれば完全に放棄が成立するのか、という問題があります。裁判所が受理したとしても、その後に債権者から無効を主張され、訴訟でひっくり返ることもあり得ます。無効となる場合の例としては、「相続財産を使っていた」「遺産分割協議を行っていた」「相続財産を自分名義に変えていた」「税金や保険料等の還付金を受け取っていた」などの場合は、「相続放棄」ではなく「単純承認」したことになるため、「相続放棄」は無効となります。書面の体裁など形式的な要件が整っていれば、家庭裁判所は相続放棄の申立てを受理してしまうため、こうした事実が後で判明することで、申立てが無効になってしまうケースがあります。こうなると、たとえ放棄をしていても、負債の責任からは免れないのです。
