制度的な生前対策としては、大きく分けると、以下の5つが代表的な手法です。このほかに、生前贈与や相続税対策などがあります。

①見守り契約(財産管理委任契約)
定期的な訪問や連絡等を通じて、生活や健康状態を見守る契約を言います。ご自身がまだ元気か、徐々に判断能力が失われつつある状況時に契約し、定期的な連絡や訪問を通じて、ご本人の状態を見守ります。
③で後述する「任意後見契約」とセットで「見守り契約」もすることで、「置き去り」になることなく、任意後見の開始がスムーズに行えます。
見守り契約における連絡や訪問の頻度は、「2〜3ヵ月に1回の電話、半年に1回の訪問」という緩やかなものから、「2週間に1回の電話、毎月1回の定期訪問」という高めの頻度にする場合もあります。電話、訪問とも、お客様の負担にならないような方法を検討します。
このほか、まだ認知症の兆しはなく、体力的にも問題はないけれど、財産の管理に自信がなく、サポートしてほしいという方もいらっしゃいます。具体的には、生活プランの作成(弊事務所はファイナンシャルプランナーの資格を有しています)、施設や病院への支払い、年金などの収入管理などを、「財産管理委任契約」を締結して、一任することもあります。この場合も前述のとおり、「任意後見契約」と同時契約することで、実際に認知症を発症後への備えとしては安心です。
②遺言書作成
遺言は「争続」を避けるために非常に有効な手段となります。生前に遺言を書いて、自らの意思を明確化しておけば、争いを未然に防ぐことが出来るかもしれません。
今円満なご家族であっても、貴方が亡くなられたことをきっかけに、ぎくしゃくする可能性があるかもしれません。その時、貴方は何も出来ないのです。遺言があれば、貴方の亡き後にもご家族にご遺志を伝えることが出来ます。
また、大した財産がない、との考えから、遺言は不要であるとお考えの方もいらっしゃると思います。ですが、遺産分割事件のうち、認容・調停成立件数は、財産額1,000万円以下が全体の約35%、それを含めて5,000万円以下までで言えば、全体の約8割弱という統計もあります(2020年度 法務省司法統計)。つまり、財産が多額であるから揉めるという訳ではなく、財産の分け方に対する感情の縺れや不公平感から争いに発展するケースが多いのです。
遺言を書く際は、「すべての財産を〇〇に相続させる」という極端な分け方をすると、他に相続人がいる場合は、必ずしも納得感が得られるとは限りません。不公平や分け方をする場合は、例えば「長男は家を継ぐから多めの財産を相続させる」という様に、差をつける理由をきちんと遺言に書くべきでしょう。
③任意後見契約
任意後見は、本人の判断能力が十分なうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、予め契約により保護の在り方(自己の生活や療養看護、財産の管理に関する事務の全部または一部についての代理権の付与)と保護者(任意後見人)を選任する制度です。契約は、公正人が作成する「公正証書」によってなされます。任意後見人は、例えばご自身の娘さんがなることも出来ますし、行政書士などの専門家が任意後見人受任者として就任することも出来ます。任意後見人は、不正防止の観点から、家庭裁判所が選任した任意後見監督人によるチェックを受けることになります。
④家族信託(民事信託)
「自分の考えがしっかりしているうちに財産を承継・整理してしまいたい。でも全部譲ってしまうのも不安だ。」といった場合、財産の「所有権」を「名義・処分権」と「収益権」に分け、「名義・処分権」だけを信頼できる家族に託すという選択が家族信託です。家族信託は自由度が高く、成年後見や遺言では出来ないことを補うことが出来ます。一方で、将来を見据えて設計しないと、認知症発症後や本人が亡くなった後に思わぬトラブルになるリスクもあるため、十分検討して契約する必要があります。
家族信託は契約行為であるため、委託者となる本人が認知症になる前に信託契約をしておかなければなりません。
⑤死後事務委任契約
ご自身が亡くなった後の手続き等について、生前に、他者(行政書士などの専門家)と契約により依頼しておくことを言います。お一人様でご自身の死後のことを託せる人がいない、お子様が遠方におられるため迷惑を掛けられないといったケースにおいてご検討の方が多いです。ご自身が亡くなった後、家の片づけや逝去後に必要な支払いなどを頼みたい場合などにも活用されます。
役所への届け出、葬儀・供養、喪主の執行、遺品整理(業者への依頼)、新聞や携帯電話やNHK等の解約、未払税金や入院費の支払い手続きなど、ご逝去後の事務を契約し委任します。
通常は公証役場にて「死後事務委任契約公正証書」を作成し契約締結を行います。また、債務の精算や還付金の受領など、遺産分割に関わる事務手続きがあると、「遺言」とラップする手続きとなるため、「公正証書遺言」とセットでの契約が望ましいです。
